● 「わが不老長寿法」その6
岡山弁護士会弁護士 宮本敦(元岡山家庭裁判所判事)
元日本裁判官ネットワークメンバー,現サポーター 
 肥満はたばこと共に不老長寿の最大の敵であるが,減量もなかなか容易ではない。

 平成4年ころ,私は裁判官として鳥取地家裁米子支部に勤務し,松江地家裁に勤務していた妻と2人の子供と松江市に住んでいた。米子市の近くには名峰伯耆大山(ほうきだいせん)がある。私は片道30キロを車で通勤していたが,そのうち毎週金曜日の夕方の勤務が終わった後,裁判所の西方にある宿舎ではなく,東方にある大山に向かって車を走らせるようになった。名水100選の「天の真奈井」(あめのまない)の水をペットボトルに何本も汲んだり,大山の細い裏道を走り回るなどする内に,すっかり大山が気に入って,自宅取得は後回しにして,大山に小さな山荘を取得したいと思うようになった。そこで医師である兄に借金を申し込んだところ,「体重が70キロを切ったら貸してやる。」と言う。このままでは私が肥満のため長生きできないというのである。「子供に借金を残すつもりか?」と兄は厳しかった。12キロの減量である。大変だとは思ったが,しかし本気になって減量を始めた。健康のためにというのであれば痩せられないかも知れないが,たばこを止めた時と同様に,動機が不純な時ほど本気になれるということであろうか。5か月で7キロ痩せた。「あと5キロか。案外チョロイものだな。」。そう思った頃転勤が近づき,忘年会や送別会やらの合間に判決を書きまくるという不規則な生活を送るうちに,減量についての緊張の糸が切れてしまい,間もなく体重は3キロ増え,転勤後間もなく元に戻ってしまった。まさしく「お腹のタルミは心のタルミ」ということなのであろう。兄からの借金の話も潰れたが、わが山荘計画そのものも,その後の家庭内の決議で,2人の子供が,計画に反対の妻の側についたため,3対1で破れてしまい,私もすっかり計画をあきらめた。不純であるが強力な動機を失ってしまい,その後なかなか痩せられないままに今日に至った。

 しかし,最近になって,自然豊かなあの大山で,仙人のような老後を過ごしたいという熱い思いが,私の中になお赤々と燃えていることに気がついた。あきらめが悪いというか,執念深いのは私の真骨頂ともいうべき特性である。よしやるぞ。「70キロを切ったら,大山山荘計画を復活させよう。」と密かに決心をした。妻には秘密である。大山の山小屋に友人達を招いて,私が打った美味しい「手打ち大山ソバ」(今はまだ大変まずい。)を振るまい,ウンザリするほど沢山釣れる小アジをみんなで釣ってきて,その唐揚げを肴に一杯飲むというのは,なんと魅力的な話であろう。「その目標に向かって,体重を減らし,酒も減らし,お金を貯めよう。」。見ておれ,俺も男だ。「男子は3日会わざれば,刮目して見るべし」と言うではないか。

 そう決心してからもグズグズと痩せられないできたが,最近ちょっとした健康上の不安を生じて,減量に本気になり,1か月で3キロ痩せた。そして今,ほぼ減量軌道に乗ったことを実感しており,空腹感が心地よい。おそらく今後も暫くの間は,月2キロの減量が可能なような気がする。もしも2か月後も順調に減量が続いておれば,次回の原稿で,その秘策を書きたいと思っている。酒も余り飲まなくなっており,毎年8月に恒例にしている人間ドックの時に,体重や血液検査の結果で,私のかかりつけの担当医師である高校時代の友人を驚かせてやろうと,今から楽しみにしているところである。
(平成17年5月)