● 広辞苑で考える裁判員制度 その3
安原 浩 (広島高裁岡山支部) 
 第5回 刑罰

あの広辞苑によりますと,@刑と罰と。とがめ。A国家が犯罪者に科する制裁,とあります。素っ気ない説明でフォローに窮しますが,裁判員制度では,刑罰の種類や重さも裁判員と裁判官とが協議して決めることになっています。しかし法律専門家ではない裁判員が刑の重さをどうやって決めるのでしょうか。それこそ専門家に任せた方が良いという意見もあり得ると思いますが,これまで説明しましたように,刑の重さも被告人や被害者,その犯罪を知る社会の人にとって納得できるものでないと,法律が十分守られているという安心感が得られません。事実認定と同様,経験者である裁判官の意見が尊重されるとしても,やはり経験者であるが故に従来の判決例の範囲を乗り越える時期にきてもなかなか超えられないというような限界もあり得ます。ここでも多様な年齢,経験の人が事件のいきさつや動機,結果,犯罪の性質など様々な要素を議論しあって,はじめておおかたの納得できる刑が導き出されると考えられます。裁判官の経験に照らした刑の幅は,協議の席で同種事例の判決例が配布されるなどして紹介がなされますから,それらを参考にして実際の担当事件について従来の刑の範囲でよいか,範囲内として上限か下限か中間かなどいろいろ考えてみようということになりますから,決して素人が口出しできない分野と考えるべきではないと思いますが,いかがでしょうか。



 第6回 国際

 毎度おなじみの古い広辞苑によりますと,諸国家・諸国民に関係すること。もと「万国」とも訳され,通例他の語の上につけて用いる。とあり,これも素っ気ない説明となっています。

 ところで,最初に紹介しましたが今回の裁判員制度に似たような素人裁判官参加制度がほとんどの先進諸国ですでに実施されているということは,実のところこれまで裁判官である我々も十分知りませんでした。英米で陪審制度が採用されていることは周知のことですが,ヨーロッパでは我々のような職業裁判官による裁判が主流と漠然と思っていたのです。今回の司法制度改革に関連して諸外国の制度が紹介され,我々もあわてて勉強したり,ヨーロッパに実際の裁判を見学に出かけたりして,あらためて井の中の蛙を感じた次第です。

 これからは法律家も国際的な視野が要求されるとつくづく感じました。

 裁判官としてもこれから大いに勉強しなければならない制度ですが,裁判員制度が,諸外国の経験の良いところを取り入れ,欠点を補正して世界に誇れる新制度に成長できるよう心から願っている次第です。国際という言葉には日本の裁判官の反省を迫る意味もあることを指摘して本シリーズを一応終えることにします。


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