● Judgeの目 その7  裁判の迅速化に関する法律
  
〜裁判の「うまい,やすい,はやい」は実現するか
浅見 宣義(大分地方裁判所) 
○ 裁判の迅速化に関する法律とは?

 この法律は,裁判に対する最も強い批判であった「遅い」「長い」裁判を,改善するためにできた法律で,平成司法改革の3つの柱の1つである「国民の期待に応える司法制度の構築」の中の重要な法律です。内容としては,第一審の裁判を2年以内のできるだけ短い期間に終わらせることを目標にしています。要は,「はやい」裁判を目指すものです。

○ 第1回検証結果の発表!

 この法律では,裁判の迅速化を推進するために,最高裁判所が,裁判所の審理期間,長期化の原因等の調査,分析を通じて,裁判の迅速化に係る総合的,客観的かつ多角的な検証を行い,国民に公表することになっています。その第1回結果が,今月半ばに発表されました。膨大な報告書ですので,興味のある方は,是非原文に当たって下さい(http://courtdomino2.courts.go.jp/home.nsf)。

 私の担当している地方裁判所における民事第一審に関するデータをいくつか紹介しますと,平均審理期間は,昭和53年においては約14か月で,これが以後上下しましたが,平成2年以後は一貫して減少し,平成16年には約8.2か月になっています。人証調べといって,証人や当事者本人を調べる証拠調べは,その対象人数が1件当たりの平均で,昭和53年が1.4人強,平成16年が0.6人であり,半分以下になっています。裁判においては,人証調べが一番時間を取りますので,特にその平均値を取ったものでしょう。これだけ平均人証数が減少した原因としては,人証調べが必要な事件が減少したことの他に,充実した争点整理による人証調べの必要性が減少したことが挙げられています。また,人証調べをした事件(実際は,欠席事件等人証調べをしない事件も多数存在します。)では,平均人証数は,昭和53年から平成5年まで,3.6人から2.7人まで徐々に減少し,以後平成6年から平成16年まで,ほぼ2.7人で一貫しています。

 上記のようなデータを見ますと,裁判の迅速化は,昭和53年以後,ある程度図られてきたことが窺えます。

○ 現場の裁判官の受け止め方は?

 しかしながら,「2年以内」と区切られたことで,現場の裁判官の中には焦っている方もおられるようです。「大方は大丈夫」と悠然としている方もおられます。人それぞれといったところですが,このような法律ができたこともあって,全体的には審理の迅速化に熱心な雰囲気が,裁判所で醸成されていることも事実だと思います。経済のグローバル化が叫ばれていることもありますし,ある程度合理的なのですが,一番心配されているのは,裁判の「うまい」,すなわち,裁判の「適正」は犠牲になっていないか,ということです。例えば,上記データのように,平均人証数が減少していることは,迅速を図るあまり,裁判所が事案解明についての努力を怠っている証拠だとして批判する弁護士の方もおられます。また,迅速を図りすぎるために,裁判官が,当事者の言い分をよく聞いて全体的解決を図る和解を簡単に諦めてしまうといった批判もあります。世上,判決が手間がかかるので強引に和解を勧めて,判決を書きたがらない裁判官がいるという批判がありますが,私が高等裁判所で仕事をしていた際には,むしろ,第一審の裁判について,弁護士の方々からは,上記のような逆の批判の方が多かったように思いました。

○ 「はやい」と「うまい」の両方を達成するには?

 これは,裁判にとって永遠の課題なのかもしれませんが,私自身は,「鉄は熱いうちに打て」の諺どおり,迅速に審理することが,事案解明のためにも,事案解決のためにもベストだと思っています。もちろん,拙速はいけませんが・・・。そして,「はやい」も「うまい」も両方達成するためには,裁判所だけでなく,当事者双方,双方代理人との協力が是非とも不可欠であり,人的,物的措置も当然必要となってきます。裁判の迅速化に関する法律は,迅速化について,裁判所の責務(6条),日本弁護士連合会の責務(5条),当事者等の責務(7条),それに政府が法制上又は財政上の措置等必要な措置を講ずる義務(4条)を定めていますが,これらは,私から見ると,「はやい」裁判が「うまい」裁判でもあるために必要な責務,義務のように思えてなりません。
(平成17年7月)