● シンポジウム「有罪判決後の被告の人生−量刑のための知識」に参加して
くまちん(サポーター)
 10月1日に国士舘大学で開催された,頭書のシンポジウムに参加してきました(被告は,被告人の誤植ではありません。念のため。どうしてこういうタイトルにしたのか,多くの国民やマスコミが「被告
と呼んでいることを踏まえたのかは不明です。)。日本犯罪社会学会が主催したものです。裁判員裁判が実施された状況下で,裁判員が量刑判断を行う上で知って欲しい刑務所や保護観察の状況について紹介するという趣旨のシンポジウムで,裁判員経験者の中から「自分が担当した被告人のその後を知りたい」といった声が出始めている状況下ではタイムリーな企画と思い,遠路旭川から上京して参加しました。
 問題提起が,「日本の殺人」(ちくま新書)「終身刑の死角」(洋泉社新書)でおなじみの河合幹雄教授,パネリストが指宿信教授,最高裁刑事局の高橋第二課長,元刑務所職員の小柳武教授(常磐大学),元保護観察官の生島(しょうじま)浩教授(福島大学)というバラエティに富んだメンバーで,期待通り中身のあるシンポジウムでした。
 河合教授は,「終身刑の死角」にも書かれているとおり,凶悪犯罪が増加しているという言説は事実に反していることを統計から指摘した上で,裁判員裁判は,お任せ民主主義を終わらせ,市民に判決に関わるだけでなく犯罪者の更生を手助けする役割も自覚させる意味がある,実際に更生に成功する人は良い協力者に出会えた人で本人の自己責任ではない面があると問題提起されました。
 指宿教授からは,裁判員裁判での情状立証は,弁護側が圧倒的に力量不足であるという耳の痛い指摘がなされ,その原因として,集中審理に対応する弁護側の人的・時間的リソースの不足,検察官との経験差,司法試験から外された刑事政策に対する知識の不足をあげられました。
 最高裁の高橋第二課長からは,裁判員裁判用の量刑検索システムについての説明がなされ,平成20年4月以降の約5700件(今年9月現在)の量刑データが蓄積されていることが報告されました。
 小柳教授からは,刑務所の一時の過剰収容は男子についてはほぼ解消したが,女子についてはまだ続いていること,窃盗による受刑者が増加していること,高齢の受刑者が激増しており,「2円で刑務所,5億で執行猶予」(光文社新書)を書かれた浜井浩一教授が言う「拒否権のない老人施設」化しつつある実態が報告されました。
 生島教授は,保護観察は社会からの疎外感を覚えている犯罪者に「居場所感」を獲得させ社会に再統合するところに本質があると述べられました。刑務所出所者のための国立自立更生促進センター設置に際して地元の反対運動に接した経験から,排除型社会への危惧を表明され,社会に更生システムに対する知識が不足しており,中・高校生レベルからの教育が必要であると主張されました。また,裁判員裁判で保護観察付き執行猶予が増えている中,環境調整には事前準備が必要であり,また保護観察に適するのかというマッチングも必要であるから,そのために地裁にも調査官を置くべきであると主張されました。
 討論の中では,生島教授の提起した地裁調査官制度に指宿教授も賛意を示され,情状については当事者主義では限界があり治療的司法の考え方が取り入れられるべきであると述べられました。高橋第二課長が,各方面から調査官制度を検討する気はないのかと迫られ,返答に困る場面もありました。
 生島教授は,司法・更生システムの構造的欠陥は,失敗例は多く目につくが成功例はなかなか知り得ない点にあるとし,成功例を多く知っているとは思えない裁判官が短時間に適切な保護観察についての説明ができるのかという疑問を表明され,これに対し,高橋第二課長は,保護観察所からの定期的な報告は裁判所に来ており,そこから得られた情報に基づいて保護観察に向く人向かない人を説明していると答えられました。
 量刑の二極化,すなわち家庭内殺人などの寛刑化,性犯罪などの重罰化が指摘されている点については,統計上の確証が取れる段階ではないという確認の上で,河合教授からは,振れ幅が大きくなるのは制度上の必然であり,裁判員は懸命に取り組む中で事案のストーリーを読み解き,その結果は重くも軽くも振れると述べられ,指宿教授は,家庭内殺人の再犯はまず考えられないが性犯罪は再犯が十分に考えられるのであり,裁判員の方が特別予防を重視しているのではないかとの仮説を述べられました。
 180人以上の参加者がありましたが,弁護士の参加者は数名で,そのうち3人は京都・秋田・旭川だったところが残念でした。シンポジウムの内容は公刊されるようですので,お目にとまれば是非ご購読いただければと思います。

(平成22年10月)