● ロースクールについて思うこと
島 川  勝(大阪市立大学)
 今年も新司法試験の発表があって、学生から合格や不合格のメールがありその対応に追われ,またロースクールでは,合格率の順位が下がったとか,上がったとかでその対策をどうするかとか,いろいろ騒がしい時期である。

 法曹人口の増加に反対の弁護士会は,新司法試験の合格者数が少なかったということで安心しているようある。ロースクールでは、これから先のことがどうなるのか、頭の痛い話である。というのは,昨年から,文部科学省から定員の2割カットの指示があり,国公立大学はほぼその方針を受入れたが,今年の合格率の平均が27パーセントであるとの数字が示すように,合格率は年々低下しており,たとえ定員を2割減としても,今後とも多くの不合格者が生まれることになる。ロースクールの学生は不合格となった場合に,どのような生活設計をするのかの不安感を抱えているが,大学の教員としてもこれに適切に答えることはできない。

 公共の空間としての司法の領域を増やすという司法制度改革の理念はよかったが、具体策において、ロースクールの数や定員を制限しなかったという制度の失敗があった。この制度の失敗は,ロースクールに対する資本投下とかの事情があっていまさら簡単には元に戻れない状態である。合格率が低いだけでなく,新司法試験に合格した者の中でも、弁護士会の就職難の事情から,法律事務所ではなく,民間会社に勤めたり、証券取引所などの公的機関に勤務したりする者がある。これらの事情から,今やロースクール卒=法曹(弁護士、裁判官、検事)という公式は崩れつつあるようにも思える。いろんな面でうまく行っていない現実からすれば,元の司法制度改革についての発想の転換が必要ではないか。

 ロースクール卒業生のうち法曹になるのが2〜3割であれば,法曹以外の社会にロースクール卒業生がいることについての意味を考える必要がある。企業や公的機関に法曹としての専門的知識を学んだ者がいることは,法曹との共通の対話の基礎があることになる。そのことは,司法制度改革が目指した司法の領域の拡大にも繋がることともなるのではないか。経済界では,ロースクール卒業生の就職支援の動きもある。また,弁護士会も司法試験合格者をすべて受け入れようと考えないでいいのではないか。弁護士資格を有しているが,弁護士としての業務ではなく,民間会社の法務部や公務員としての仕事をする。弁護士事務所の需要があれば,弁護士業務に転換するということがあってもいいのではないか。そうすれば,弁護士会は弁護士資格取得者の数の増加を必死で抑える必要がない。

 ドイツでも司法試験合格者がすべて法曹になるのではないと聞いている。もちろん司法試験合格者も都市部に集中しないで,司法過疎地への就職を考えて積極的に活動する必要があるし,そのような取り組みはなされつつある。いずれにしても,制度設計のひずみについて,早急に司法改革の理念を再構築する必要がある。
(平成21年12月)