● 「峠の落し文」についての一読者からの感想
安原 浩(広島高裁岡山支部) 
 「峠の落し文」を読まれた方(長野県在住,女性)から次のような感想を頂きました。裁判官に寄せる市民の期待が出ていると思われますので紹介します。
(平成16年11月)

(感想)
 随筆「峠の落し文」を町会長さんから「とても良い本だから,読んでみませんか」と声を欠けて頂いてお借りしました。法曹界のこれからの若い方々のご活躍を,また,現世に十分通用するよう人間愛に即したこの名著を参考として,国民の為に同じ視線に立たれて処して頂きたいと願ふ市井の一人でございます。

 樋口和博先生の「峠の落し文」を読み進む毎に,私共平凡な一市民が,とうてい知り得ぬ法曹界の仕来りや司法関係の方々の陰の努力とたゆまぬ調査等におどろきを禁じえませんでした。

 それ以上に,人生の裏街道を心ならずも通らねばならなかった人達の数々の実話を「峠の落し文」として示された豊かな心情に心打たれました。どんな事件にかかわった人にも対等な視線で人として優しく,純粋に対処される人間性に感動致しました。御自分の真心をもって相手の心に強く示される強さが人の心をときほぐしてゆかれるのだと思います。全文をとおして,特に「M少年のこと」「肩書」に涙してしまいました。信じることの大切さ,重さ,それが人を勇気付け,信頼に報いようとはげまされる,人間愛は誰のこころにも必ず持ち合わせていると嬉しくなりました。

 どうぞ,願わくば,法曹界の後進の方々に沢山読んで頂き,公正なる取調べ,説得力を発揮されん事を祈り,罪は裁かれても,一人でも多くの人が「M少年」のように社会復帰をされ,明るい社会が生まれることを期待して止みません。

 巻尾の宮田雅之先生の切絵と瀧愁麗先生の挿絵の素晴らしいハーモニーに美の世界に誘われ,すがすがしい名句の数々,久方ぶりに感銘の一時を心よりお礼申し上げます。