● 弁護士任官どどいつ(39)

竹内浩史(横浜地方裁判所)
    検証す来た見るなら 調書は略し 「た分かった」に しやしゃんせ

 前回に続いて交通集中部の雑感から。
 裁判官になって初めて現場の検証に行った。特に交通事故の場合、現場を見て心証が取れるケースもあるから、検証ではなくても何度か足を運んでいる。しかし、裁判官が検証の採用に慎重になる理由の一つは、検証調書の作成で書記官に過分の負担をかけかねないことである。それでは本末転倒であって、裁判官が現地を見ることこそが大事なのだから、私は当事者に断って、調書の記載は大胆に省略することにしている。

    なんで信号 設置をしない 危険な丁字路 交差点

 現場を見て痛感するのは、交通事故が起きやすい危険な交差点というものが明らかに存在するという事実である。信号機の無い丁字路交差点などは、その典型だろう。裁判になるケースが目立つので、過失相殺基準に追加された経緯もあったと記憶している。交通訴訟の結果を交通警察にフィードバックして、対策の強化を検討してもらうべきではないだろうか。

    少額訴訟の 物損事故に やりたい「三方一両損」

 さて、交通部で最も難しい事件は、死亡や高度後遺障害事案もさることながら、むしろ少額の物損で双方の言い分が鋭く対立するケースかも知れない。弁護士費用を出してくれる保険もあるようで、双方が言い分に固執し徹底的に争う。しかし、刑事事件になっていないため、証拠が極めて乏しく、判断に難渋する。大岡裁きの「三方一両損」にならって、裁判官がいくらか出してもいいから和解させることができたら、なんて思うことも無きにしもあらず。

    交通審判 実現したい 交通訴訟に 参与員

 先日、日弁連の司法シンポジウムが開催され、労働審判にならった民事審判の創設も提言された。これに適する事件として筆頭に挙げられたのが、交通事件である。思い付きだが、まず人事訴訟のように参与員を制度化してもいいかも知れない。現行の民事調停法の下でも、訴訟を調停に付して、調停委員立会いの上で証拠調べをし、調停に代わる決定をすることは可能だろう。
 交通警察官や市民の優良ドライバーにも是非、交通裁判に参加していただきたいと思う。

(2010年10月)