● サブリナ・マッケナ裁判官のこと
森 野 俊 彦(京都家裁) 
 さる6月26日の日曜日、大阪梅田の場外馬券売り場近くの会場でサブリナ・マッケナ裁判官をお招きしての「語らい」のひとときが持たれた。マッケナ判事は、日本在勤の米軍属の父親と日本人母親(北海道出身)との間に生まれられた二世で、ハワイ州の弁護士、ハワイ大学の助教授を経て、1993年12月ハワイ州の判事に任命されている。別稿でもあるとおり、このほど、日弁連の司法シンポにゲストとして招かれ、パネルディスカッションではハワイの司法制度を紹介しながら、日本における司法改革に関する感想、改革の行方、日本の法曹に対する期待等を誠実に、かつ熱っぽく語られた。その明快な語り口と、女性らしい「優しさ」がにじみ出る雰囲気・たたずまいに接すると、誰もがその魅力にとりつかれるのではないだろうか。なにを隠そう、この私もそうなのだ。8年ほど前にハワイ州の陪審裁判と裁判官の単独裁判を見学した際、壇上の女性裁判官の訴訟指揮の見事さ、我々に対する説明の懇切丁寧さに驚嘆し、さらにはアメリカの裁判官の包容力の大きさに感服したのだが、そのときの裁判官がマッケナさんであった。それ以来、日常生活に埋没するなかにあっても、ハワイのことが話題に出るたびに、連想ゲーム的に「マッケナさんはどうされているだろうか」と思ったものであった。2年前、別の団体の招待で来日されたとき、いち早く情報をかぎつけ、大阪、京都と「追っかけ」をしたりもした。私にとって同判事はエクセレントであり、エレガントであった。こうした私をエクセントリックに思われるかもしれないが、同判事の存在は、私にとって裁判官を続ける原動力のようなものであった。

 そのマッケナさんが、われわれ日本裁判官ネットワークのために「お話し合い」をしたいとおっしゃってこられたのだ。この機会を逃すわけにはいかない。M弁護士からアドレスを教えてもらい、何度か打ち合わせのメールのやりとりをさせていただいたが、日本の裁判所を少しでもよくするためにどうすればいいか、をまるで自分の国のことのように考えられ、口にされるのには驚かされた。しかし考えてみると(いやそれほど考えなくとも)、日本はマッケナさんにとって母国なのだ。それはさておき、日程上の事情で、日曜日の午後という少し出にくい時間帯になってしまったが、それにもかかわらず、「ロの字」型のテーブルを囲んでの語らいにちょうどふさわしい人数の人たちの集まりは、充実した、何よりも、心暖まるものであった。話は、裁判官の選任制度・再任制度、市民の司法参加、裁判官の市民生活を中心にして、おりからのマイケル・ジャクソン陪審評決まで及んだが、それについては石渡さんがファンクラブ通信で要領よくまとめてくださっているので、屋上屋を架す愚は避けよう。懇親会を終えて、マッケナさんをホテルに送った際、マッケナさんは別れ際に「是非ハワイに来てください。歓待します。」とおっしゃってくださった。私はこの一言で、さらに何年か分の元気をもらったような気がした。そして誓った。マッケナさんに「マッケナいよう」頑張ろう。

 マッケナさん、有り難う。

(平成17年7月)