● 「戦時下」のアメリカ
判事補・米国留学中
 セプテンバー・イレブン3周年の前夜は野球場でメジャーリーグ・ベースボールを,3周年の当夜は家の近くの自然公園で華麗なレーザーショーを観て過ごした。少しは予想していたことであるが,どちらも国威発揚イベントと化しており,右手を胸に当てての国家斉唱,イラク戦争を賛美する発言・映像の数々,そして観客から絶えず沸き起こる拍手喝采と,ここはファシズムの支配する国かと疑いたくなるような光景が展開されていく。「戦時下」にある国家とはこういうものなのかもしれない。興味深いことに,この種の国威発揚イベントに嬉々として参加しているのは大方が白人であり,現在のブッシュ政権に対する支持率が1割にも満たないと言われる黒人やマイノリティの姿はあまり見かけない。彼らは今を冬の時代と心得てひたすら沈黙を守っているのだろうか。アメリカは決して人種の「るつぼ」ではなく,職業も収入も居住地域さえも人種ごとに明確に区分されているというのは有名な話であるが,そのような下部構造の違いは当然のことながら異なる階級意識を生み出すようである。「自由と平等の国」という破綻寸前の共同幻想を抱く国アメリカは1か月後の大統領選挙でどのような選択をするのだろうか。


(平成16年9月)