● 推薦本「トラブル依頼人」

浅見宣義(神戸地方裁判所伊丹支部)

 知人の麻田恭子さんが,「トラブル依頼人」(風塵社)という本を出された。麻田さんは,現職の法律事務所職員で,「リーガルコーディネーター」を名乗っておられる。「リーガルコーディネーター」といっても,まだあまりなじみがないかもしれないが,簡単にいうと,弁護士の協働者として,弁護士と依頼者との間に立って,依頼者の心を解きほぐし,弁護士と依頼者との認識理解をすりあわせていく役割を果たす法律事務所職員とのことである。もちろん,麻田さんは,法律事務所職員が非弁活動までするとか,弁護士の担う仕事を下請けしていくということまで主張されているわけではない。ただ,弁護士事務所の職員に,「新たな職域」を提案されている。「トラブル依頼人」の本は,そんな「リーガルコーディネーター」の活動記録を加工したもので,とても興味深い。帯には,あの北尾トロさんが,「借金,離婚,マインド・コントロール,弁護士をサギる依頼人・・・弁護士事務所の人間ドラマはかくも濃い」と書いておられる。

 麻田さんとの出会いは,亡くなられた民事訴訟法の大家井上治典先生を通じてである。もう10数年前になるが,麻田さんが,井上先生ほかと,私の勤務裁判所に訪ねてこられた。井上先生は,麻田さんの立教大学大学院での指導教授である。当時は,民事訴訟法改正のために,全国の裁判官と弁護士が民事訴訟の運営改善を行っていたが,そのシンポジウムが私の勤務地であったのである。
 当時の民事訴訟の運営改善の試みの一つには,裁判所の機能強化のために,裁判官と書記官との協働関係,書記官のコートマネージャー化というのがあった。麻田さんは,その動きにも学びつつ,井上先生や所属した弁護士事務所の弁護士の各指導,それに共同研究できる法社会学者らの協力を得て,「リーガルコーディネーター」を理論化し,かつ実践していかれたのだと認識している。論文や共著に,「マチ弁事務所における業務展開の一形態(立教法学第70号)」「共同研究・法律事務職の可能性(久留米大学法学43号)」,「リーガルコーディネーター 仕事と理念」(信山社)などがある。麻田さんは,初学者のころの情熱をずっと持ち続けられていて,頭が下がる思いである。

 それにしても,麻田さんからこうした機会に連絡をいただくと,つい井上先生のことを思い出してしまう。麻田さんも同様のようで,麻田さんにとっての師の大きさを感じさせられる。こうした師弟関係は理屈抜きにいいものだと思うが,世間では少なくなってきたと感じる。そう感じるのは,自分も年をとってきたためであろうか。