● 仲人から家庭裁判所へ 
        神戸地方・家庭裁判所伊丹支部支部長 判事 浅見宣義
  1. はじめに
     私は,現在,民事事件と共に,家事事件を担当している。家事事件にも,内容的にはいろいろあるのであるが,私は,離婚,財産分与,婚姻費用分担,親権者の指定・変更,子の監護者の指定,遺産分割等に係わる人事訴訟事件,家事調停・審判事件を担当している。家事事件をまとまって担当するのは,裁判官に任官して21年目で初めてであるが,家事事件は,民事・刑事事件とは違った特色があってとても興味深い。

  2. 仲人が消えたために・・・
     私が担当している家事事件のうち,家事調停事件の期日が指定される曜日には,離婚を求める当事者の事件が1日に何件も入っている。配偶者の暴力・暴言や,不貞・遺棄など破綻原因がはっきりしている事例もあれば,そうでない事例もある。後者の事例では,性格の不一致というのも離婚の理由になることが多いようであるが,事案としては,もう少し夫婦で話しあったり,話合いが無理なら,第三者に相談してアドバイスをもらったりできないのかと思うことがある。特にお子さんのいる場合がそうである。
     ただ,最近は,対立する夫婦の双方に,中立的な立場から上手にアドバイスしてくれる第三者があまりいないのが現実のようである。一昔前なら,「仲人」がその役割を果たしており,結婚式及び結婚披露宴の後も,夫婦の相談相手になり,夫婦に軋轢が生じたときは,鎮静剤となることもあったのだと思われるが,今はそういう存在は希なようである。私も,裁判所職員の結婚披露宴に出席することがあるが,主賓はおられるものの,「仲人」や「媒酌人」(結婚式当日だけの「仲人」)にお目にかかることはほとんどない。友人や両親では,相談する側に感情移入することが多いために,夫婦関係が微妙になった場合に「仲人」と同様の働きをすることはなかなか難しそうである。「媒酌人」に頼まれることが多かった職場の上司も,プライベートなことには口を挟みにくくなっているご時世である。このため,いきおい,多くの家庭に関する紛争が,「仲人」的な人を経ずに,ストレートに家庭裁判所に持ち込まれることが多くなった感じがしている。夫婦によっては,相談する人がないために,毎年家庭裁判所の門をたたいているという事例もある。
     こうして,昔は「仲人」が扱ったであろう事案をも,家庭裁判所がやむを得ず扱うことになるが,現実の解決はそう甘くない。「仲人」がいなくなったのは,個人主義的な結婚観が浸透し,恋愛結婚が増えて,両家をとりもつといった感覚が薄れたためと思われるから,反面で,離婚に対して抑制的な役割を果たしていた古い社会的な要素,例えば家や本人の体面維持等の要素は大幅に後退している。このため,夫婦の片方が「離婚」を求めたときに,「復縁」的な解決を図ることは,困難なことが多い。家事審判官が調停委員2人と協力して,3人で知恵を出し合っても,せいぜい「別居」させるか,「別居」を続けさせてしばらく冷却期間をおき,子供の将来を含めて今後夫婦のことを考えさせるという案に落ち着くのがせいぜいで,多くは離婚調停が成立か,話合いが決裂して調停不成立に終わることになる。「仲人」がいなくなった今,家庭裁判所が「仲人」が受け持っていた事案を担当せざるを得ないが,そうはいっても「仲人」と同様の役割は果たせないと諦めるほかない。
     もっとも,時に,復縁的な調停が成立すると,調停委員2人と心から喜び合い,「申立人と相手方は,今後お互いに協力し合って円満な家庭を築くよう努力する」といった道義条項中心の調停条項を作成し,当事者の前で調停条項を読み上げることになる。私は,その後で,当事者に対し,「せっかくここで仲直りをしようと決意されたのだから,後でお送りする調停調書を大事にして,また喧嘩しそうになったら,調停調書を是非読み直し,調停委員会の前で誓ったことを忘れないようにして下さい。」と伝えることにしている。

  3. 「仲人」の役割のほかにも・・・
     こんな風に,社会の変化に伴って,家庭裁判所に来る事案は変化拡大しているが,より深刻な事案の変化は,当事者に「うつ病」「うつ状態」の人が実に多くなったことである。私が家事事件を担当して,最も驚いたのはこのことである。時には,夫婦双方が「うつ病」という事例も見かける。
     そういえば,私が裁判所に通う途中の駅にも,神経内科の宣伝の看板がかかっている。他の駅でも同様の看板をよく見かける。ストレス社会だからそういう事態になるりはやむを得ないと思われるが,家事事件でも,というより民事・刑事の事件よりもさらに家事事件で,ストレスを感じている人の多さに驚くばかりなのである。そして,そのストレスの原因が,巷間耳にすることが多い職場ではなく,家庭であるというのであれば,診断や治療の経過をもにらみつつ,夫婦関係から早期に当事者を解放してあげなくてはいけないと思いに至る例が少なくない。こうした場合,家庭裁判所は,カウンセラーや精神科医のような役割を果たさなくてはいけないのかもしれない。家庭裁判所には,家庭裁判所調査官や医務技官もいるから,当然といえば当然なのであるが・・・。

  4. おわりに
     法律の仕事をしていると,扱う事案が,自分の住んでいる社会,時代を如実に反映していることを実感させられる。民事・刑事の各事件でもそうであるが,家事事件も同様である。そこには,人間の最も身近な社会である家庭の苦悩が現れている。
     家事事件は,実は,理論的に解明されていない分野もあり,法律家としてはとても興味深い分野である。また,裁量的な判断も多いので,家事審判官としては,民事・刑事の訴訟事件とは違ったやりがいもある。そして,前記のように,「仲人」がいなくなり,心を病んだ人も助けを求める場でもあり,人間としてもやりがいのある分野である。
     司法修習生や法科大学院生の皆さんは,実務修習を受ける場合には,是非関心を持って修習してほしいというのが実感である。
(本稿は,日本裁判官ネットワーク通信NO1「ちょっといい話」から転載しました。)